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「やさしさ」の教育

露木 和男/著


読者対象:小学校教員

出版年月:

ページ数:184

人間の成長とは、「見えないものが見えてくること」
小学校の教員を37年間勤め、現在は早稲田大学で教員志望学生を指導している著者が、
今改めて問い直すのは、子どもが学ぶことの意義です。何のために学校に通い、何のために学ぶのか? その目指すべき姿を、次のように表現しています。

「誤解を恐れずに言えば、例えば子どもが磁石を学ぶのは、磁石について詳しくなるためでもなければ、資質・能力を身につけるためでもありません。磁石を媒介にして、先生と子どもが仲良くなり、子ども同士が仲良くなるためです。仲良くなるというのは、やさしくなることなのです」

「やさしさ」とは、私たちの存在が無数のつながりによって成り立っているということに気がつくことです。すべての存在に思いを馳せ、目に見えないつながりを見ようとすること、それが本当の「やさしさ」です。
そのつながりを体験的に、直観的に捉えることができるという意味で、子どもの頃の自然体験はきわめて重要だと言えるでしょう。自然界には、目に見える現象の奥に、目に見えない無数の関係性や変化などが潜んでいるからです。そして、子どもたちの中にある「やさしさ」を引き出すための鍵となるのが、「センス・オブ・ワンダー」なのです。

センス・オブ・ワンダーの本質
レイチェル・カーソンが提唱した「センス・オブ・ワンダー」は、「神秘さや不思議さに目を見はる感性」と訳されます。その一節を紹介しましょう。

「地球の美しさと神秘さを感じとれる人は、科学者であろうとなかろうと、人生に飽きて疲れたり、孤独にさいなまれることはけっしてないでしょう。たとえ生活の中で苦しみや心配ごとにであったとしても、かならずや、内面的な満足感と、生きていることへの新たなよろこびへ通ずる小道を見つけだすことができると信じます」

地球の美しさと神秘さは、何も特別な景色にだけ存在するわけではありません。何でもない日常の中に価値を見いだす感性が、心の豊かさや人生の充実につながります。そして、当たり前の生活や身の回りの環境に対して、感謝と敬意を抱くとき、そこには「やさしさ」が育っているのです。
子どもたちの日記には、センス・オブ・ワンダーが溢れています。次のような表現からは、鋭い洞察や豊かな感性を子どもが備えていることがよくわかるでしょう。

きょう、うちのうらにある大きな水がめに雨水がたまり、かがたまごをうんでぼうふらが生まれていました。見ていたら、おもしろいうごきをしていました。水がめのそこのほうからくねくねと水面におよいで上がってきます。しっかり上にでてきたらそれから一度くねっとおどってすーっとしずんで下にもどっていきます。それはどういういみなのかな。よくみると上に上がったとき、あわみたいのを出していたから、いきをしているんだと思いました。お母さんに話したら、早く水がめをひっくりかえして水をすてなさい、と言われました。でも大きすぎてできませんでした。

子どもたちの「やさしさ」が育つ授業
ある秋の日、1年生の子どもたちと虫捕りに出掛けました。バッタやカマキリを見つけるたびに、子どもたちから歓声が上がります。虫捕りを終えて、教室に戻ってから、ある事実が発覚しました。
Kくんが虫かごに入れようとして逃げ出してしまったオオカマキリを、たまたま近くにいたSくんが捕まえてしまったというのです。普通なら、ここでけんかになるところでしょう。ところが、二人はけんかをするどころか、互いに譲り合ったというのです。そして、最終的に「このカマキリは二人で育てよう」という結論に至ったといいます。小学校1年生でもこのような解決の仕方ができるということに、著者は驚きました。カマキリを通して、子どもたちは「どう生きるか」に関わる大きな学びを得たのです。


このような「やさしさ」が育つ授業には、子どもたちが夢中になって追究し、感性を磨くような環境づくりが必要です。そのポイントの一つに、「周辺」を大切にすることが挙げられます。授業の目標をもつことは当然大切ですが、その目標にこだわりすぎると「周辺」が見えません。

例えば、ある日の校外学習では、子どもたち160人を連れて化石採集に行きました。子どもたちは勇んで化石採集に臨んだものの、なかなか出てこない化石に、集中力が途切れてきました。その日は大変な暑さだったこともあり、冷たい川に浸かる子、池のウシガエルを捕まえようとする子、石で水切りをする子などが現れました。
せっかく化石採集に来たのだから、そのことだけに集中してほしいと教師は願うかもしれません。しかし、これでいいのだと著者は言います。なぜなら、川原で遊ぶことや水の冷たさを感じること、川の流れの様子を知ることも子どもたちにとって貴重な経験だからです。そのような「周辺」からも、子どもは多くのことを学んでいます。教師の思惑の外に問いを発見したときこそ、真に子どもが主役の授業となるのです。

目次
はじめに 

第1章 「やさしさ」とは何か
 1 見えないものを見るために
 2 心を込めて生き物を育てる
 3 「育てる」から「育つ」へ

第2章 子どものセンス・オブ・ワンダー
 1 「発見ノート」に表れる子どもの感性
 2 子どもの文章の奥にあるもの
 3 仲間の中でこそ感性は磨かれる
 4 なぜ感性を磨くことが大切なのか
(1)「意義深いなにか」
(2)センス・オブ・ワンダーの本質
(3)「いのち」とつながること
 
第3章 子どもの「やさしさ」にふれる瞬間
 1 「いのち」とつながる子どもたち
 2 人間としての生き方を学ぶ 
 3 仲間と共に生きる喜び
  (1)学校を休んだNくんに届いたFAX
  (2)「いつも周りに友だちがいた」と書いたGくん
  (3)「助け合い」の世界
  (4)Tくんの発見ノート
 4 文章に投影される子どもの生き方

第4章 「やさしさ」が育つ理科の授業
 1 日本の風土が生んだ「自然に親しむ」
 2 「自然を愛する心情」の本質
  (1)「知らない」ということの恐ろしさ
  (2)「知る」ということの価値
  (3)教師の姿から学ぶ
 3 理科の基本は「よく見る」こと
 4 感性を磨く理科の授業
 5 セレンディピティが生まれる理科の授業
  (1)「周辺」を大切にする
  (2)「やってみなければわからない」という楽しさ
  (3)セレンディピティを生み出すために
 6 地球とつながる理科の授業
  (1)氷から出てくる「もやもや」の追究
  (2)冷たい水はお湯より重いのか
  (3)深層海流の原理につながる実験

第5章 子どもの心に添う授業づくり
 1 未来を「創造」する教師
  (1)授業に求められる「計画性」と「偶有性」
  (2)子どもの心に添うために 
  (3)「矛盾」で授業は生きる
 2 子どもの心に添う評価とは何か
  (1)子どもを「諒解」すること
  (2)どのように子どもを見るか
  (3)学力は優劣ではなく「個性」
  (4)「目に見えない力」を評価する

第6章 日本の教育はどこに向かうか
 1 教室で何が起こっているのか
 2 「知」と「情」が一体化した教育を
 3 「学校学」のすすめ
  (1)「朝の語らい」のすすめ
  (2)「子どもへの信頼」のすすめ
  (3)「遊び心」のすすめ
  (4)「感動の追究」のすすめ
  (5)「多様性の受容」のすすめ
 4 学力調査が奪うもの
 5 「最大限の可能性を発揮する場」としての学校
  (1)マララさんのスピーチから
  (2)教育システムの矛盾
  (3)「生きる喜び」を子どもたちに

おわりに 
著者プロフィール
露木和男
早稲田大学教育・総合科学学術院教授
1949年、福岡県生まれ。福岡教育大学小学校理科課程卒業後、神奈川県足柄上郡開成小学校、上大井小学校を経て、1985年より24年間、筑波大学附属小学校に勤務。現在は、小学校の教師を目指す大学生に理科の面白さ、自然観察の楽しさを伝えている。2016年度秋学期早稲田大学ティーチングアワード総長賞受賞。神奈川県自然観察指導員として、毎年、市民を対象に自然観察会を開催。野外での実験教室に特化した「早稲田こどもフィールドサイエンス」の活動として、実際に子どもたちと触れ合う機会も多い。また、全国各地に出向き、理科の出前授業や講演活動を行い、子どもたちが楽しむ理科の授業づくりを追究している。
[2019年7月現在]